戦う君に、花束を 154
そう言いながら、彼は猟銃を、背中に背負い直す。
「頼む」
ロシャを、どこまで信じていいのかは分からぬが、今は、この地に詳しい彼の力が必要だった。だからハヤブサも、彼の申し出を受け入れた。
ロシャは、ハヤブサに対して頷き返すと、洞窟の中に入って行った。
「行きましょう」
姫もそのあとに続いて歩き始める。その傍に、ハヤブサが寄り添った。
「よ、よし……! 俺たちも行こう!」
兵士たちも、多少おっかなびっくり、と、言った風体はあるが、その後ろに付き従った。
しばらく歩いたところで、ロシャが足を止めた。
「………どうやら、この洞窟に調査団が入ったようですね」
「そうなの!? なぜ分かるの!?」
姫の驚いた声に、ロシャが地面を指さして答えた。
「……地面に、足跡があります」
「─────!」
ロシャの指摘に、ハヤブサも地面に目を凝らす。なるほど確かに、地面には、複数人の足跡が、点々とつけられていた。
「しかも、比較的新しい……。靴の跡も、あなた方兵士たちが履いている物と、同じもの、と、推測できます」
「うへっ! 本当かよ……!」
トマスが、素っ頓狂な声を上げて、自分の足の裏を見る。ハヤブサも素早く目を走らせて、兵士たちの靴の裏の紋様を確認した。なるほど確かに、兵士たちの靴の裏と、地面についている足跡の紋様が、一致する。
「行きましょう。生きている方が、いるかもしれません」
姫は顔を上げて、躊躇いなく前に進み始めた。恐怖よりも、『助けなければ』という使命感の方が、彼女を突き動かしているらしい。
「ひ、姫様~~!」
「待って下さ~~い!」
少々腰が引け気味の兵士たちが、そのあとに続く。
ハヤブサとロシャも頷きあって、それから走り出していた。
洞窟内をしばらく走ると、足元に、何かが転がっているのが見つかる。
「荷物だ!!」
兵士の一人が、その傍に走り寄る。
「姫様! これは、軍から支給される鞄です!」
「もう間違いない……! やっぱり、調査団はここに来たんだ……!」
そう言いながら、トマスが鞄を開けて、中を確認する。中には、非常食や救急用のキットが、きれいに整理されて入っていた。
(襲われたな)
ハヤブサは、瞬時にそう判断する。
探索において、絶対に手放してはいけない物が入っている鞄を、こんな風に無造作に落としていくなど、普通は考えられないからだ。
「……何か来ます」
ロシャが、猟銃を構えながら、警戒した声を発する。
「!!」
兵士たちはとっさに姫を庇い、それをさらに背後に庇うようにハヤブサが立つ。皆が警戒を強める中、『それ』は姿を現した。
「………………」
ひた、ひた、と、静か足取りで、こちらにゆっくりと近づいてきたのは、兵士の姿をした『人間』であった。
「お、おい……!」
その姿を認めた瞬間、トマスはその兵士の前に飛び出す。
それもそのはずで、彼はトマスに『土産を買ってきてやる』と、言いおいて、調査団の任に就いた兵士だったからだ。
「無事だったんだな!? 心配したぞ!」
「………………」
「お前ひとりだけか!? 他の皆は?」
「………………」
トマスの問いかけに、男は黙して答えない。
最初に、その異変に気が付いたのは、龍の忍者であった。
「トマス!! そいつから離れろ!!」
「えっ?」
トマスが、ハヤブサの方に振り返った瞬間。
ドグォッ!!!
派手な轟音とともに、目の前の男の身体が、真っ二つに裂ける。その中から、黒い、無数の蛇のような物体が、一斉に飛び出してきた。
「うあ………!」
あまりの事態に、トマスの脳は、周囲の状況の理解を拒む。ただ呆けたように、その光景を見つめることしかできなかった。
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