戦う君に、花束を 150


「はい」

 顔に、笑みを浮かべる。
 きっと自分は、うまく笑えている、と、思う。

「行きましょう」

 そう告げて、部屋から出ていく。龍の忍者も、静かにあとからついて来てくれた。

 しばらく進むと、兵士たちが待機していた。

「姫様………」

 兵士たちは皆、表情も一様に固く、そして案ずるように、こちらを見ている。

「みんな…………」
 兵士たちの中にトマスを見つけて、ナディール姫ははっと息を呑んでいた。

 ────俺たちが引き留めている間に、逃げてください………

 モンスターに襲われて、絶体絶命だったときに、トマスは確かにそう言って、自分を逃がそうとしてくれていた。
 彼の話を信じるのなら、トマスはここに来て日が浅いはず。にもかかわらず、彼は自分のために、命を懸けてくれていたのだ。

 これは、考えれば考えるほど、すごいことのように思う。
 自分は、それを、決して当たり前、と考えてはいけないのだ。
 向けてくれるその『心』に、感謝の気持ちを、決して忘れてはならないと、思った。

(うん……。うん………。よし………!)

 もう一度、深呼吸をして、自分の考えを腹に落とし込む。

 兵士たちが命を懸けて私を守ってくれるように、私も、皆を守っていこう。

 兵士たちだけではない。
 この国にいる皆を

 王家に忠義立てをくれるとか、くれないとか、そんなのは関係なく。

 この国の、皆を守る。

 それが、私の『役目』だから─────

「姫様………」

 硬い表情をしたまま、押し黙ってしまった姫に、皆が一様に心配をする。
 「大丈夫ですか?」と、声をかける前に、姫の方が顔を上げ、そして、驚くほどに柔らかい笑みを、その面に浮かべていた。

「皆、大丈夫ですか? よく眠れましたか?」

「……………!」
「は、はい!!」

「そう、よかった」

 ニコリ、と、微笑む姫。それにつられて、兵士たちの面にも、笑みが浮かぶ。
「皆、朝食は食べましたか?」
 姫の問いかけに、皆は一斉に姿勢を正した。
「はい! 姫様!!」
「我々は、朝食を済ませました!」
「いつでも、出ることができます!!」

「そうですか……。では──────」

「お前は、朝食がまだだろう」

 その時、姫の背後から、ぴしゃりと声が飛んできた。
 はっと姫が後ろを振り返ると、龍の忍者が腕組みをして、ジト目でこちらを睨んでいた。

「朝食を食わずに出るなど、俺が許さん。ちゃんと朝飯を食え」

「え………でも………」

「お前に倒れられたら、ここにいる全員が迷惑を被るんだ」

「う…………!」
 ハヤブサの正論に、反論する術を持たないナディール姫。それに対してハヤブサは、やれやれ、と、ため息を吐いていた。
「ここの者たちが、お前のための朝食を用意してくれている。それを、ちゃんと食べろ。総ては、それからだ」
「はい」
 龍の忍者の言葉に、姫は素直に頷いていた。


 宿の者に、案内されるままに食堂に向かうと、テーブルの上に、既に朝食が並べられていた。先程、盛り付けられたばかりなのだろう。食事からは、暖かそうな湯気が、ゆらゆらと立ち上っていた。
(美味しそう………)
 空腹を意識して、姫は席に着く。すると、龍の忍者が近寄ってきて、そっと小さな声をかけてきた。

「ナディール、毒味用のスプーンは持ってきているか?」

「──────!」
 はっ、と、一瞬息を呑むナディール。だが直ぐに、彼女は懐から、そのスプーンを取り出していた。
「これは、肌身離さず持つようにしていますから、ここに。ちゃんと持っています」
 姫もまた、小声でハヤブサに答えながら、そっと、そのスプーンを見せる。龍の忍者は頷くと、再び口を開いた。
「俺を含め、兵士たち何人かで、『毒味』は一応してある。今のところ、異常はなかったが───」
「……………!」
 姫が振り返ると、食堂付近で待機している兵士たちが、こちらに向かって、『大丈夫ですよ』と、言うジェスチャーをしていた。おそらく彼らが、『毒味』をしてくれたのだろう。

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