戦う君に、花束を 136
「いいのか?」
ノゾムに頼まれたとき、ドモンは思わずまじまじと、彼を見つめてしまった。
色白の、か細い身体をしたノゾムは、どう見ても戦うことに向いているとは、言えなかったからだ。
「構いません!」
ドモンの少し躊躇うような空気を、敏感に感じ取ったノゾムは、必死に食い下がっていた。
「僕だって、男です! いずれは、お義姉様を、お守りしなければならないんす!」
これは、ノゾム自身、常日頃から考えていたことであった。
怖いからと言って
幼いからと言って
何時までも義姉や大人たちの後ろに、こそこそと隠れるように色々なことをやり過ごしている、自分。
このままで、いいはずがない。
このままで、いいはずがないのだ。
「…………………」
必死に食い下がってくるノゾムを、ドモンは少し苦い顔で見つめる。
自分が訓練をつけるのなら、それはかなり、過酷なものとなる。
この、色白でか弱いノゾム少年が、それに耐えきれるとは、到底思えないのだが──────
(いやだ!! 俺だって、いつまでも兄さんのおまけなんかじゃないんだ!!)
「………………!」
不意にドモンの脳裏に、師匠の前で食い下がっていた、幼かったころの自分の姿が蘇っていた。
窮屈だった家を飛び出し、東方不敗の前で、「修行をつけてくれ!」と、わめいた自分が、ちょうど10歳。今目の前にいる、ノゾム少年と、同じ年だ。
「………………」
あの時、わめく自分をじっと見つめていた東方不敗が、何を考え、何を思っていたのかなど、今の自分には知る由もない。
だが、東方不敗は、自分の師匠となってくれたではないか。
必死に縋り付こうとした自分を、師匠は突き放さなかった。だから、今の自分がある、と言っても過言ではない。
必死にわめく自分と、目の前のノゾム少年の、姿が重なる。
ならば、今こそ自分も、師匠と同じように行動するべきなのではないのか。
彼から受けた恩を、少しでも返すために。
「………俺の訓練は厳しいぞ? ついて来れるか?」
「はい!! ぜひお願いします!!」
ノゾム少年は、迷いなく即答していた。
厳しい修行こそ、自分の望むところだったからだ。
彼がそう決意を固めていたところに、義姉であるナディール姫に、呼び出されていた。
「私は、明日からラナン地方の視察に行ってこようと思っています」
「視察ですか?」
義姉の言葉に、ノゾムは少し驚いたような声を上げる。その横で、同様に王太后も、驚いたように目を見開いていた。
「ええ。大臣たちとも話し合って、決定したの」
対してナディール姫の面には、あくまでも穏やかな表情が浮かんでいた。
「ノゾムも、そして、お義母様もご承知の通り、ラナン地区は我が国にとって、治安を維持するためにも、レアメタルの鉱脈的にも、重要な拠点です。この地区から最近、頻繁にいろいろな報告が上がってきています」
そう言いながら、姫は机の上に、書類の束を、ドン! と、音を立てて置く。どうやらこの分厚い書類の束が、全部、ラナン地区から送られてきた、訴えの数々らしい。
「もちろん、中には取るに足らない報告もあります。しかし、見ての通り数も日々多く、少し前に派遣したレアメタルの鉱脈の調査団が帰ってきていないのも、少し気になります。ですから一度、私が直接行った方がいい、と、判断したのです」
「お義姉様……!」
呆然とするノゾム王子の横で、王太后が少し苛ついたような声を上げていた。
「ナディール、貴方がこの城から出るのは勝手ですが─────その間の、国の執務はどうなさるおつもりなのです?」
「その間は、ノゾムとお義母様に、お任せしようと思っています」
「え…………!」
「まあああ………!」
この姫の言葉に、2人は同時に声を上げる。よほど意外なことだったらしい。
「そのように、驚かれることではないでしょう」
対してナディール姫は、少し苦笑気味の笑顔を、2人に向けていた。
「ノゾムも、王族の一員です。お父様が病を得て、私がここを離れる時─────王の代理として、国の執務を執ることは、当然のことではないですか?」
「そ、それはそうかもしれませんが………」
少ししどろもどろになるノゾム王子に対して、王太后は沈黙を貫いていた。ただ、その目つきは、どこか苦虫を噛み潰したような、険しさを含んでいるように見えた。
「大丈夫よ、ノゾム」
動揺を隠しきれていない義弟に対して、ナディール姫は笑顔を向けた。
「私が留守にする期間は、そう長くはありません。すぐに帰ってきます」
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