マリオネット狂想曲 13
3
「うう~~~~~ん………」
シュバルツの二つの体液のデータを見比べながら、キョウジは難しい顔をしている。シュバルツが術にかかってから、かれこれ2週間が経過しようとしていた。
その間、キョウジとハヤブサの消耗は、想像を絶するものがあった。本当に――――いろいろあったのだ。
まず、二人が苦慮したのは、シュバルツの身の置き所だ。
「隼の里にシュバルツを行かせるわけにはいかないかな?」
キョウジの提案に、ハヤブサは渋い顔をした。
「いや、まずいだろうな……。里には、シュバルツを慕っている子供たちがいる」
「えっ?」
「来訪が嬉しい客人に対する子供の突進力は―――――半端なものではないぞ?」
「―――――!」
それは確かにいろいろまずいな、と、キョウジも思った。子供たちに抱きつかれたシュバルツがどうなってしまうのか――――想像するだけでも、気が滅入る。
「じゃあ、あまり気が進まないけど、シュバルツを里の『座敷牢』みたいなところに入れるのは――――」
「座敷牢か……」
キョウジの言葉に、ハヤブサはふむ、と考え込む。
「………………」
しばしの沈黙の後、ハヤブサの面に、『にへら』と、好色そうな笑みが浮かび上がったものだから――――
「や、やっぱりやめておこうか。なんかいろいろ、危険な香りしかしないし……」
顔を引きつらせながら言ったキョウジの言葉に、ハヤブサもはっと我に返った。
「す、すまん!! キョウジ……! 俺としたことが―――――!」
「いや、いいよ……」
「ああっ! 座敷牢の中にいるシュバルツがいろいろと可愛らしすぎて………ッ!」
「そ、そうなんだ………」
座り込んでさめざめと泣いているハヤブサを、キョウジはもう生暖かい眼差しで見つめるしかない。その横で相変わらず表情のないシュバルツが、ぼ~っと椅子に腰かけていた。
(意識があれば、ハヤブサを殴り飛ばしているんだろうけどなぁ……)
ここに身体はあるのに、やはり、シュバルツの不在を感じてしまって、キョウジは少し寂しい心持になる。シュバルツを、早く元に戻さなければと決意を新たにした。
「仕方がないなぁ。定期的にいろんなデータを調べたいから、シュバルツはやはり、私のそばに置いておくとして――――」
キョウジはポリポリと頭を掻きながら、ハヤブサの方に視線を走らせた。
「ハヤブサ、なるべくシュバルツのそばにいて、私の手伝いもしてくれると助かるんだけど――――」
「それはもちろん」
キョウジの言葉に、ハヤブサは力強く頷く。シュバルツを元の状態に戻したいのは自分も同じだし、遠慮なくシュバルツのそばにいられるというのなら、自分としても万々歳だ。
「………と、なると、あと一つの問題は―――――」
キョウジがそう言うと同時に、玄関のドアがバンッ!! と、音を立てて勢いよく開いた。
「兄さん!! ちょっと手合わせに付き合ってくれ!!」
今まさにキョウジが心配していた人物が、笑顔で走りこんでくる。彼の名はドモン・カッシュ。キョウジの弟にして稀代の格闘家である彼は、暇を見つけてはシュバルツに修行をつけてもらいに来ていたのだ。
キョウジのコピーであるシュバルツも、ドモンにとっては『兄』という認識であるため、シュバルツのことも彼は「兄さん」と呼び、とても慕っていた。
「兄さん! ………て、あれ?」
部屋の奥に座るシュバルツの姿を見つけたドモンは、まっすぐに駆け寄ろうとする。だがその前に――――キョウジとハヤブサが立ちはだかっていた。
「ど、どうしたの? 兄さん……」
二人の様子に少し異様なものを感じたドモンは、足を止めて首をかしげる。ドモンが止まったのを確認してから、キョウジはその面に笑みを浮かべた。
「悪いなドモン。シュバルツは今―――――メンテナンス中なんだ」
「メンテナンス?」
かなりびっくりしたように、ドモンはキョウジを見る。シュバルツがカッシュ家の一員に加わってからだいぶ経つが、「メンテナンス」などしているそぶりを、一度たりとも見たことがなかったからだ。
「シュバルツ………どこか悪いのか?」
心配そうに見つめてくる弟に、キョウジは優しい笑顔を向けた。
「そんなんじゃないよ。ちょっと、検査をしたいだけだから」
「検査って…………!」
キョウジの言葉に、ドモンの顔色がますます蒼白になっていく。
(あれ? おかしいな? 私はそんなに心配させるようなことを言っているのかな?)
弟から帰ってくる反応が妙すぎて、キョウジの方もだんだん不安になってくる。
変だな。『心配ない』って、言っているつもりなのに。
対してドモンの方は、『心配ない』と言う兄の言葉を、実はかなり信用していなかった。この目の前にいる優しく笑う兄は、自分がきついときほど『心配ない』『大丈夫だ』と、笑顔で言ってしまえることを知っていたからだ。
「ちょっと……シュバルツの様子を見せてくれ!」
心配が加速する弟は、シュバルツの方に走っていこうとする。「ま、待ってくれドモン!」と、キョウジが制止の声を上げるが、それで止められるはずもなく。しかしドモンがシュバルツの傍に到達する直前―――――龍の忍者が間に割って入った。
「待てと言っている! シュバルツに不用意に触るんじゃない!!」
「――――ッ! 何でだよ!?」
「何ででもだ!!」
口下手な龍の忍者は、ドモンの質問を不愛想に斬って捨てる。それでこの弟が納得するはずもない。
「理由を説明しろ!!」
「言う義理は無いな」
「納得できるか!! 俺は弟だぞ!! 兄を心配する権利ぐらいはある!!」
(それもそうだよな)
ハヤブサとドモンの口論を、キョウジは顔を引きつらせながら見守るしかない。ドモンの言い分はまさに正論だが、理由を説明できないのは自分も同義だった。故に、どちらの肩を持つこともできない。
「とにかく、シュバルツの様子を見せてくれ!!」
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