キョウジ兄さんたちに捧げる物語 129
「分かった……。しかし、お主はどうする?」
東方不敗はキョウジに問うた。システムを掌握したとは言え―――ここは敵の真っただ中だ。こんな所に、キョウジ一人を置いて行くわけにはいかない。
「そうですね…。ですから……私を、あそこに……」
そう言いながら、キョウジは女神の近くにある一本の柱を指す。柱の上に、小さな踊り場が設置されていて、人ひとりぐらいなら安全にその上に立てそうだ。しかし、柱の下は、炎の海と化していた。
「あんな所にか!?」
東方不敗は思わず絶句した。襲われないと分かっているとはいえ、女神のすぐそば。しかも、炎に囲まれているそれは、いつ崩れてもおかしくない状態だ。
「あんな所だからこそ……敵に襲われる心配はない……」
キョウジは微笑みながら言葉を続けた。
「それに……万が一の場合、私は……『倒れる』だけで済む……」
「な―――!」
東方不敗はキョウジの意図している所を理解して息を飲んだ。柱の上で倒れた先にあるのは、炎の海だ。万が一、事態がどうにもならないとキョウジが悟った場合は、自ら炎の海に飛び込んで―――勾玉を封印することで、この事件にけりをつけるつもりなのだ。
「すみません……。ちょっと…もうあちこち動き回れそうになくて……。でも…倒れるだけなら、出来そうだから……」
「――――ッ!」
(おのれッ!!)
東方不敗はいきなり勾玉に手を伸ばしてきた。バシッ!! と、音を立てて、勾玉が東方不敗の手を撥ね退けようとする。だが、それにも構わずに、東方不敗は勾玉に掴みかかった。
「マスター!?」
驚いて声を上げるキョウジに構わず、彼の胸の辺りから―――勾玉をそのままむしり取ろうとする。だが―――勾玉は、キョウジの胸の前から、びくりとも動こうとしなかった。
「うぐッ! ああああああ――――ッ!!」
それどころか、キョウジが悲鳴を上げはじめた。勾玉に力を加えると、彼の方に激しい痛みが襲いかかってしまうようだ。
「う……ッ! あ……!」
キョウジが、苦しそうに胸を抱え込むようにしている。
「キョウジ……!」
東方不敗はついに―――勾玉を、キョウジから引き剥がす事をあきらめざるを得なかった。キョウジを助けたいのに苦しめてしまっているのでは、本末転倒だ。
だが……。
東方不敗は、己の拳の震えを、止める事が出来ない。
「キョウジよ……!」
言葉が溢れるのを―――止める事が出来ない。
「この馬鹿者…! 馬鹿者!!」
「マスター……あっ!?」
キョウジが小さく驚きの声を上げた。東方不敗にいきなり抱きすくめられたからだ。
胸の前の勾玉が、東方不敗を拒絶するかのように、バシン! バシン! と、音を立てながら強い光を放っている。それでも東方不敗は、キョウジを更に深く抱き込んできた。
勾玉が東方不敗を傷つける事を恐れたキョウジは、慌てて勾玉を両手で覆う。すると勾玉は、拒絶する様な光を放つ事を止め、大人しくキョウジの手の中に収まった。
「何故じゃキョウジ!! 何故―――!」
キョウジを抱きしめながら、東方不敗が叫んだ。
「何故勾玉を、己の身体からちゃんと分離せんのだ!! さすればそれを抱えて炎に飛び込む役ぐらい、ワシが代わってやろうものを――――!!」
「…………!」
驚くキョウジの手の上に、東方不敗から流れた涙の滴が落ちてくる。
(この人が……私のために泣いてくれるなんて……!)
それこそ、思いもよらない事だった。自分には、勿体なさ過ぎると思った。
「…………」
キョウジは、身体の力を少し抜いて、東方不敗に凭れかかる。
温かい胸だと思った。優しいぬくもりを感じた。
こんなふうに抱きしめられるのは、一体いつ以来だろう。
ああ、そうだ。
この人はこの優しさで――――。
傷ついたドモンを、笑顔にしてくれた人なのだ。
それは自分では、どう足掻いても、出来なかった事だった。
だからキョウジは、言葉を紡いだ。この人には『生きて』欲しくて。
「駄目ですよ、マスター……。貴方が死ねば…ドモンが悲しみます……」
「お主が死んでもドモンは哀しむ!! 何故それが分からんのだ!!」
そう叫んだ東方不敗の口から、最早隠しようもない嗚咽が漏れる。キョウジを抱きしめるその身体が―――震えていた。
「マスター……」
キョウジは、困ったように微笑んだ。
ありがとう。
ありがとう、マスター。
もう充分です。
貴方のその涙だけで。
温もりだけで―――。
私にはもう、充分すぎる。
「……行きましょう、マスター……」
咽び泣く東方不敗に、キョウジは声をかけた。
「…闘いに――――」
「――――!」
キョウジの言葉に、東方不敗はピクリと反応する。
「……『闘う』のか?」
顔を上げ、問いかける東方不敗に、キョウジは頷いた。
「最後まで―――」
「…………!」
じっと、こちらを見定めるように見てくる東方不敗に、キョウジはふっと相好を崩したような笑みを見せる。
「すみません…。私は割と……あきらめは悪いです……」
「キョウジ……!」
「ですから、行きましょう。マスター……」
「…………」
「闘わせてください…。最後まで―――」
「…………ッ!」
キョウジにこうまで言われてしまっては、東方不敗も、もう立ち上がらざるを得ない。
「分かった……。参ろうぞ、キョウジ…。戦いの場へ―――」
だが死ぬな、決して死ぬな、と、東方不敗はキョウジに何度も何度も念を押す。それに対してキョウジは「努力します」と、苦笑いながら答えるしかなかった。
「では……行くぞ!」
東方不敗は総てを吹っ切るようにそう言うと、キョウジを抱きかかえ、立ち上がった。
東方不敗はキョウジに問うた。システムを掌握したとは言え―――ここは敵の真っただ中だ。こんな所に、キョウジ一人を置いて行くわけにはいかない。
「そうですね…。ですから……私を、あそこに……」
そう言いながら、キョウジは女神の近くにある一本の柱を指す。柱の上に、小さな踊り場が設置されていて、人ひとりぐらいなら安全にその上に立てそうだ。しかし、柱の下は、炎の海と化していた。
「あんな所にか!?」
東方不敗は思わず絶句した。襲われないと分かっているとはいえ、女神のすぐそば。しかも、炎に囲まれているそれは、いつ崩れてもおかしくない状態だ。
「あんな所だからこそ……敵に襲われる心配はない……」
キョウジは微笑みながら言葉を続けた。
「それに……万が一の場合、私は……『倒れる』だけで済む……」
「な―――!」
東方不敗はキョウジの意図している所を理解して息を飲んだ。柱の上で倒れた先にあるのは、炎の海だ。万が一、事態がどうにもならないとキョウジが悟った場合は、自ら炎の海に飛び込んで―――勾玉を封印することで、この事件にけりをつけるつもりなのだ。
「すみません……。ちょっと…もうあちこち動き回れそうになくて……。でも…倒れるだけなら、出来そうだから……」
「――――ッ!」
(おのれッ!!)
東方不敗はいきなり勾玉に手を伸ばしてきた。バシッ!! と、音を立てて、勾玉が東方不敗の手を撥ね退けようとする。だが、それにも構わずに、東方不敗は勾玉に掴みかかった。
「マスター!?」
驚いて声を上げるキョウジに構わず、彼の胸の辺りから―――勾玉をそのままむしり取ろうとする。だが―――勾玉は、キョウジの胸の前から、びくりとも動こうとしなかった。
「うぐッ! ああああああ――――ッ!!」
それどころか、キョウジが悲鳴を上げはじめた。勾玉に力を加えると、彼の方に激しい痛みが襲いかかってしまうようだ。
「う……ッ! あ……!」
キョウジが、苦しそうに胸を抱え込むようにしている。
「キョウジ……!」
東方不敗はついに―――勾玉を、キョウジから引き剥がす事をあきらめざるを得なかった。キョウジを助けたいのに苦しめてしまっているのでは、本末転倒だ。
だが……。
東方不敗は、己の拳の震えを、止める事が出来ない。
「キョウジよ……!」
言葉が溢れるのを―――止める事が出来ない。
「この馬鹿者…! 馬鹿者!!」
「マスター……あっ!?」
キョウジが小さく驚きの声を上げた。東方不敗にいきなり抱きすくめられたからだ。
胸の前の勾玉が、東方不敗を拒絶するかのように、バシン! バシン! と、音を立てながら強い光を放っている。それでも東方不敗は、キョウジを更に深く抱き込んできた。
勾玉が東方不敗を傷つける事を恐れたキョウジは、慌てて勾玉を両手で覆う。すると勾玉は、拒絶する様な光を放つ事を止め、大人しくキョウジの手の中に収まった。
「何故じゃキョウジ!! 何故―――!」
キョウジを抱きしめながら、東方不敗が叫んだ。
「何故勾玉を、己の身体からちゃんと分離せんのだ!! さすればそれを抱えて炎に飛び込む役ぐらい、ワシが代わってやろうものを――――!!」
「…………!」
驚くキョウジの手の上に、東方不敗から流れた涙の滴が落ちてくる。
(この人が……私のために泣いてくれるなんて……!)
それこそ、思いもよらない事だった。自分には、勿体なさ過ぎると思った。
「…………」
キョウジは、身体の力を少し抜いて、東方不敗に凭れかかる。
温かい胸だと思った。優しいぬくもりを感じた。
こんなふうに抱きしめられるのは、一体いつ以来だろう。
ああ、そうだ。
この人はこの優しさで――――。
傷ついたドモンを、笑顔にしてくれた人なのだ。
それは自分では、どう足掻いても、出来なかった事だった。
だからキョウジは、言葉を紡いだ。この人には『生きて』欲しくて。
「駄目ですよ、マスター……。貴方が死ねば…ドモンが悲しみます……」
「お主が死んでもドモンは哀しむ!! 何故それが分からんのだ!!」
そう叫んだ東方不敗の口から、最早隠しようもない嗚咽が漏れる。キョウジを抱きしめるその身体が―――震えていた。
「マスター……」
キョウジは、困ったように微笑んだ。
ありがとう。
ありがとう、マスター。
もう充分です。
貴方のその涙だけで。
温もりだけで―――。
私にはもう、充分すぎる。
「……行きましょう、マスター……」
咽び泣く東方不敗に、キョウジは声をかけた。
「…闘いに――――」
「――――!」
キョウジの言葉に、東方不敗はピクリと反応する。
「……『闘う』のか?」
顔を上げ、問いかける東方不敗に、キョウジは頷いた。
「最後まで―――」
「…………!」
じっと、こちらを見定めるように見てくる東方不敗に、キョウジはふっと相好を崩したような笑みを見せる。
「すみません…。私は割と……あきらめは悪いです……」
「キョウジ……!」
「ですから、行きましょう。マスター……」
「…………」
「闘わせてください…。最後まで―――」
「…………ッ!」
キョウジにこうまで言われてしまっては、東方不敗も、もう立ち上がらざるを得ない。
「分かった……。参ろうぞ、キョウジ…。戦いの場へ―――」
だが死ぬな、決して死ぬな、と、東方不敗はキョウジに何度も何度も念を押す。それに対してキョウジは「努力します」と、苦笑いながら答えるしかなかった。
「では……行くぞ!」
東方不敗は総てを吹っ切るようにそう言うと、キョウジを抱きかかえ、立ち上がった。
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